■個別労働紛争の実態
事業主と労働者間の個別労働紛争が増加しています。厚生労働省の調査によれば平成21年度は以下のようになっています。
1.総合労働相談コーナーに寄せられた相談 | 1,141,006件 | 106.1%増 |
2.民事上の個別労働紛争に係る相談の件数 | 247,302件 | 104.3%増 |
3.都道府県労働局長による助言・指導の件数 | 7,778件 | 102.4%増 |
4.紛争調整委員会によるあっせんの件数 | 7,821件 | 107.5%減 |
相談の内容は、「解雇」が最も多く「労働条件の引下げ」「いじめ・嫌がらせ」が続いています。その原因としては、
@労務費削減のために、事業主側が労働法規を軽視している
A雇用が不安定で、低賃金の非正規労働者(契約社員・パート等)が増加している
B正規労働者の長時間労働化
C労働者の権利意識の高揚
D労働組合運動の機能の低下 等が考えられます。
■個別労働紛争を解決する手続
個別

◆紛争調整委員会によるあっせん手続き
紛争調整委員会とは、「個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律」にもとづいて、都道府県労働局に設置され、あっせんを行う機関をいいます。紛争調整委員会によるあっせん手続きは、学識経験者から任命された紛争調整委員が、非公開審議で、紛争当事者双方の主張を相互に確認し、実情に即した内容でまとまるよう解決を図ります。当事者の一方の申し立てで手続きが開始しますが、相手方の出席は強制されません。紛争調整委員があっせん案を打診し、当事者間で合意が成立すればその合意は、民法上の「和解契約」となります。解決の見込みが見られないときは、打ち切りとなります。
◆均等法上の調停手続き
都道府県労働局に設置され、非公開審議により、当事者双方の実情に即した解決を図ります。一方の申し立てで手続きが開始されますが、相手方の出席を強制できません。調停委員会が「調停案」を示し、応諾するよう勧告ができます。
当事者間で合意が成立すれば、民法上の「和解契約」となります。解決の視こみがないときは、打切りとなります。
◆民間の紛争解決機関によるあっせん・調停(ADR)
「裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律」(平成16年法律代151号)が平成16年に成立し、平成19年4月1日から施行されました。時間と費用と労力のかかる訴訟手続きによらないで、公正な第三者が関与して紛争解決を図る手続きを「裁判外紛争解決手続」といいます。裁判外紛争解決手続のうち、民間の紛争解決機関が行う和解の仲介業務につき、その業務の適正さを確保するために、法務大臣の認証を受けることとされています。認証機関としては、全国の弁護士会の法律相談センター・仲裁センター、法テラス、全国・各社会保険労務士会の労働紛争解決センター等があります。合意内容は、「和解契約」とみなされます。
◆労働審判委員会による労働審判手続
個別労使紛争に関し、裁判所において、裁判官と労使の専門委員で構成される労働審判委員会が、紛争事案について3回以内で審理し、話合い解決の調停を図り、調停不成立のときは労働審判を言い渡します。紛争の迅速・適正な解決を専門的な知識を生かし非公開で解決する制度で、平成18年4月1日よりスタートしました。
調停が成立すれば、調停証書が作成され、裁判上の和解の効力を生じます。
調停が成立しないときは、労働審判が言い渡され、2週間以内に異議申し立てがなければ労働審判は確定し、異議があるときは、訴訟に移行します。
◆裁判所による民事訴訟手続
裁判所が、当事者双方の言い分を聞き、証拠を調べ、判決することによって紛争の解決を図る手続をいいます。訴訟目的の価格が140万以下は簡易裁判所、140万を超えるときは地方裁判所の管轄で行われます。原告は訴状および証拠を、被告は答弁書や証拠をそれぞれ提出し、公開の法廷で主張を争います。
裁判所は、双方の主張を充分斟酌し、判決を言渡します。判決後2週間以内に当事者が不服(控訴)を申し立てなければ、確定します。なお訴訟の途中でも和解を試みることができます。「訴訟上の和解」として確定判決と同じ効力をもちます。
■個別労働紛争とあっせん・調停
解雇、労働条件の引下げ、セクハラ等の職場のトラブルは、当事者間の話合いによって解決するにこしたことはありません。しかし労使間の利害が対立したり、感情的な対立などにより解決が困難なケースが多々あります。このような場合は、第三者の専門家を加えて客観的に双方の言い分を良く聞き、実情に即した現実的な解決を図ることが大切です。これを「あっせん」と言います。
「あっせん」は、裁判のように白黒をはっきりさせるためのものではなく、専門家を交えて双方話合いにより、問題をより現実的に、円満に解決を図ろうとするものです。双方あっせん案・調停案に納得できないときは、合意する必要はありません。
◆あっせん・調停の長所と短所
長所 | 1.裁判より迅速に問題解決を図れる |
U.行政が行うあっせんは無料 | |
V.手続きが裁判より簡素 | |
W.あっせんは非公開、プライバシーが保護される | |
短所 | T.あっせんに応ずるかは自由(非強制) |
U.あっせん案に応ずるかは自由(非強制) | |
V.和解案の強制力は裁判ほど強くない |

特定社会保険労務士は、依頼人からの委任をうけ、個別労使紛争のあっせん・調停の代理人となります。代理人となった場合は、依頼人の依頼内容を精査し、申立書または答弁書を作成し、行政機関の職員の行う調査に協力し、あっせん・調停当日は、申し立て・答弁を行い、和解の余地があれば和解契約を結びます。
お気軽にご相談・お問合せください。
特定社会保険労務士 浜口 勇
(登録認定番号13920081)
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